CAPM・WACC・NPV・IRR・DCF・EVA・リアルオプションの理論と実践
企業価値評価は「この投資は価値を生み出すか」という問いへの答えです。CAPM(資本資産価格モデル)でリスクに見合う期待リターンを求め、WACCで資本コストを加重平均し、DCFで将来キャッシュフローを現在価値に割り引く——この一連の枠組みは、M&A・設備投資・事業ポートフォリオ判断のあらゆる場面で使われます。
CAPMは、株式(リスク資産)への期待リターンをリスクフリーレートと市場リスクプレミアムの関数として表します。
ベータは個別株が市場全体の動きに対してどれだけ敏感かを示す指数です。
| ベータ値 | 意味 | 典型例 |
|---|---|---|
| β = 1.0 | 市場と同じ動き | インデックスファンド |
| β > 1.0 | 市場より変動大(ハイリスク・ハイリターン) | ハイテク株、新興株 |
| β < 1.0 | 市場より変動小(ディフェンシブ) | 電力・食品株 |
| β = 0 | 市場と無相関 | リスクフリー資産 |
企業が調達した資本(株主資本+有利子負債)の平均的なコストです。事業投資のハードルレートとして使われます。
例:表面利率3%、税率30% → 税引後負債コスト = 3% × 0.7 = 2.1%
投資から生まれる将来キャッシュフローをWACCで割り引いた現在価値の合計から、初期投資額を引いた値です。
NPVをゼロにする割引率のことです。IRR > WACCであれば投資採択です。
事業が生み出す「自由に使えるキャッシュ」。株主・債権者双方に帰属するキャッシュフローです。
DCFで将来FCFを割り引く際、事業全体(負債+株主に帰属するキャッシュ)を評価するならWACCを、株主帰属のキャッシュを評価するなら株主資本コスト(Ke)を使います。
税引後営業利益から投下資本コストを引いた「真の超過利益」です。会計上の利益がプラスでもEVAがマイナスなら価値破壊となります。
プロジェクトを「無借金の場合の価値(ベースケースNPV)」と「節税効果などの財務副次効果の価値」に分けて評価する手法です。WACCではなく株主資本コストを使ってベースNPVを算出するため、資本構成が複雑な場合や変化するLBO案件に適しています。
投資案件に内在する「柔軟性の価値」をオプション理論で定量化します。
| オプション種類 | 内容 |
|---|---|
| 拡張オプション | 好調なら事業規模を拡大できる権利 |
| 撤退オプション | 不調なら損失を限定して撤退できる権利 |
| 待機オプション | 不確実性が解消するまで投資を延期できる権利 |
DCFだけでは捉えられない「不確実性下での柔軟な意思決定の価値」を定量化できる点が実物オプションの強みです。
企業はどの程度を負債で、どの程度を株主資本で調達すべきか——この問いへの主な理論的回答を整理します。
| 理論 | 主張 | ポイント |
|---|---|---|
| MM定理(修正前) | 完全市場では資本構成は企業価値に無関係 | 税金・倒産コストなし前提 |
| MM定理(修正後) | 節税効果により負債が多いほど企業価値大 | 法人税を考慮 |
| トレードオフ理論 | 節税メリットと財務困難コストのトレードオフで最適点が存在 | 最も現実的 |
| ペッキングオーダー理論 | 情報の非対称性から内部留保→負債→株式発行の順に資金調達を優先 | 株式発行は最後の手段 |
この記事の内容に対応する確認問題です。まず自分で答えを考え、「答えと解説を見る」で正解と解説を確認しましょう。このテーマを含む財務・会計の問題集(全問)や、本番形式(選択・採点つき)のトップページのクイズもご利用ください。
Q1. CAPMにおける株主資本コストの計算式は?
正解:Rf + β×(Rm − Rf)
解説:株主資本コスト=無リスク利子率+β×市場リスクプレミアム。
期待リターンを見積もる標準モデル。WACC算定や投資評価の割引率に用いられます。
Q2. WACC(加重平均資本コスト)で、負債コストに対して考慮するのは?
正解:税引後の負債コスト
解説:負債コストは税効果(タックスシールド)を考慮し税引後で評価します。
WACC=E/(D+E)×Re+D/(D+E)×Rd×(1−T)。負債は利息が損金算入され節税効果があります。
Q3. NPVの説明として適切なのはどれか?
正解:割引いた将来CFの現在価値合計から初期投資を引いた値
解説:NPV=割引現在価値合計−初期投資。
NPV>0なら価値創造と判断し採択が望ましい。割引率にはWACC等を用います。
Q4. IRR(内部収益率)について正しいのは?
正解:NPVを0にする割引率
解説:IRRはNPVが0になる割引率。
IRRが資本コスト(ハードルレート)を上回れば投資採択の目安になります。
Q5. フリーキャッシュフロー(FCF)の近似式は?
正解:営業CF − 投資CF
解説:FCFは営業CFから投資CFを控除。
厳密には税引後営業利益ベースから運転資本とCAPEXを調整する方法もあります。
Q6. DCF法で用いる割引率として妥当なのは?
正解:WACC
解説:資本構成を考慮したWACC。
企業価値の割引では負債と株主資本のコストを資本構成比で加重したWACCを用いるのが一般的です。
Q7. ベータ(β)の解釈として正しいのは?
正解:市場感応度を示す係数
解説:市場全体に対する価格変動感応度。
βが1より大きいと市場より変動が大きく、1未満だと小さいと解釈されます。
Q8. 税引後負債コストの算定で考慮するのは?
正解:利息の損金算入による節税効果
解説:負債コストは税引後に調整。
利息費用が損金算入されるため、実効税率を考慮して負債コストを低下させます。
Q9. 最適資本構成の議論で代表的な考え方は?
正解:トレードオフ理論
解説:節税メリットと破綻コストの均衡。
負債の節税効果と財務リスク上昇による期待破綻コストのトレードオフで最適点を考えます。
Q10. EVA(経済的付加価値)の近似式は?
正解:NOPAT −(投下資本×WACC)
解説:資本コスト控除後の利益。
投下資本に対する期待収益率(WACC)を差し引き、真の価値創造を捉える指標です。
Q11. APV(調整現在価値)法の特徴として正しいのは?
正解:無借金価値と税盾効果を個別に評価
解説:無借金価値に税盾等を加算。
資本構成の影響を個別に評価するため、レバレッジ効果の分析に向きます。
Q12. 実物オプション(リアルオプション)の代表的な価値は?
正解:投資の柔軟性が価値を生む
解説:待つ・拡張・中止などの柔軟性。
不確実性の下で意思決定の柔軟性(延期、拡張、中止等)が追加価値を生みます。
Q13. CAPM(資本資産価格モデル)において「ベータ(β)」が示すものはどれか?
正解:個別株式の市場全体に対する価格変動の感応度(市場リスクの大きさ)
解説:β=1は市場と同じ動き、β>1は市場より大きく変動する高リスク株です。
CAPM:期待リターン=無リスク利率+β×(市場リターン-無リスク利率)。β=1なら市場平均と同じリスク、β>1なら市場が10%上がると株価は10%超上がるハイボラティリティ株、β<1は安定株。β×(市場リターン-無リスク利率)が「リスクプレミアム」です。
Q14. WACC(加重平均資本コスト)の計算で使う「負債コスト」として正しいものはどれか?
正解:支払利息率×(1-法人税率)で算出する税引後の実効負債コスト
解説:利息は損金算入(節税効果)があるため、負債コストは税引後(利率×(1-税率))で計算します。
WACC=(E÷V)×Re+(D÷V)×Rd×(1-T)。E=時価総額、D=有利子負債、V=E+D、Re=株主資本コスト(CAPM等)、Rd=負債コスト(借入利率)、T=法人税率。利子の節税効果を反映するため(1-T)を掛けます。WACCを上回るIRRのプロジェクトが価値を創出します。
Q15. NPV(正味現在価値)法において、プロジェクトを採択する条件はどれか?
正解:NPV>0(将来CF現在価値の合計が初期投資を上回る)
解説:NPV>0は投資がWACCを上回るリターンを生み、企業価値を増加させることを示します。
NPV=Σ(将来CF÷(1+割引率)^t)-初期投資。NPV>0なら投資により資本コスト以上のリターンが得られ、企業価値(株主価値)が増加します。NPV法はIRR法と並んで最も重要な投資評価手法です。IRR法の問題点(複数解・再投資収益率の仮定)を回避できる点でNPVが優れるとされます。
Q16. DCF法のターミナルバリュー(継続価値)の算定でよく使われる「ゴードン成長モデル」の式はどれか?
正解:最終年度FCF×(1+永続成長率)÷(WACC-永続成長率)
解説:ゴードン成長モデルはFCFが一定率で永続する仮定でターミナルバリューを算定します。
DCF法では予測期間(5〜10年)のFCFを現在価値に割り引き、それ以降を「ターミナルバリュー(TV)」で代替します。TV=FCFn×(1+g)÷(WACC-g)(g=永続成長率)。TVが企業価値全体の50〜80%を占めることも多く、成長率・WACCの仮定が結果を大きく左右します。
Q17. IRR(内部収益率)法の問題点として挙げられるものはどれか?
正解:キャッシュフローの符号が複数回変わる場合に複数のIRRが存在し、判断が困難になること
解説:非通常型CF(符号変化複数回)では数学的に複数のIRRが存在し、一意の判断ができません。
Q18. 「EVA(経済的付加価値)」とはどのような概念か?
正解:税引後営業利益から資本コスト(投下資本×WACC)を差し引いた経済的利益
解説:EVAは会計利益でなく、資本コストを上回る経済的利益を測定します。
EVA(Economic Value Added)=NOPAT(税引後営業利益)-(投下資本×WACC)。会計利益がプラスでもWACCを下回るリターンではEVAはマイナスで、経済的には価値を破壊しています。スターン・スチュワート社が開発し、業績評価・経営者報酬・投資判断に活用されます。
Q19. 「マーケット・アプローチ(類似会社比較法)」による企業価値評価の特徴はどれか?
正解:上場類似企業の株価倍率(PERやEV/EBITDA等)を使って非上場企業の価値を算定する
解説:類似上場企業のマルチプルを使い、対象企業に適用して価値を推定します。
Q20. 「割引率(ディスカウント・レート)」が高くなるとDCFによる企業価値評価はどうなるか?
正解:将来CFの現在価値が小さくなり、企業価値評価額が低下する
解説:割引率上昇→現在価値係数低下→将来CFの現在価値が小さくなります。
DCFでの現在価値=CF÷(1+r)^t。rが大きいほど分母が大きくなり現在価値は小さくなります。金利上昇局面ではWACCが上がりDCFバリュエーションが下がる傾向があります。特に遠い将来のCFほど割引効果が大きく、高成長スタートアップの評価が金利上昇で大きく下がる理由です。
Q21. DCF法(Discounted Cash Flow)で企業価値を計算する際に使用する割引率はどれか?
正解:WACC(加重平均資本コスト)
解説:FCFをWACCで割り引いて事業価値を求める。
DCF法では将来のフリーキャッシュフロー(FCF)を適切な割引率で現在価値に換算する。この割引率には企業全体の資本コスト(負債コストと株主資本コストの加重平均)であるWACCを使用する。株主価値のみの場合は株主資本コストを使う。
Q22. ターミナルバリュー(継続価値)の計算において、ゴードン成長モデルを使う場合の算式はどれか?
正解:FCFn+1 ÷ (WACC − g)
解説:TV = FCF(n+1) ÷ (WACC − g)。永久成長率gが前提。
ゴードン成長モデルによるターミナルバリュー(TV):予測期間最終年のFCFが一定成長率gで永続的に成長すると仮定する。TV = FCFn+1 ÷ (WACC − g)。WACCはgより大きくなければならない(g < WACC)。DCF法の企業価値の大部分をTVが占めることが多く、感度分析が重要。
Q23. マルチプル法(EV/EBITDA)において、EV(企業価値)はどのように計算されるか?
正解:時価総額 + 有利子負債 − 現金・現金同等物
解説:EV=時価総額+有利子負債-現預金(事業価値の総合指標)。
EV(Enterprise Value):企業全体(負債・株式の両保有者視点)の価値。計算式:EV = 時価総額 + 有利子負債 − 現金・現金同等物。EVをEBITDA(利息・税金・償却前利益)で割ったEV/EBITDAは業種比較や買収時の指標として広く使われる。
Q24. 類似会社比較法(Comparable Company Analysis)の長所として正しいものはどれか?
正解:市場の実勢価格を反映した客観的な評価が得られる
解説:市場の現在の評価を反映し比較的客観的。
類似会社比較法(Comps):上場する類似企業の市場倍率(PER・EV/EBITDAなど)を参照して評価対象企業の価値を算定する。市場価格を直接反映する客観性がある。一方、適切な比較対象企業の選定が難しく、市場全体の過大・過小評価の影響を受ける。
Q25. CAPM(資本資産価格モデル)における期待収益率の計算式はどれか?
正解:リスクフリーレート + β × (市場期待収益率 − リスクフリーレート)
解説:E(R) = Rf + β × (Rm − Rf)。マーケットリスクプレミアムにβを乗じる。
CAPM(Capital Asset Pricing Model):期待収益率E(R) = Rf + β×(Rm−Rf)。Rf:リスクフリーレート(国債利回り等)、β:システマティックリスク(市場感応度)、(Rm−Rf):マーケットリスクプレミアム。株主資本コストの推定に広く使われる。
Q26. PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る株式について、理論的に言えることはどれか?
正解:市場が企業の解散価値(純資産)以下に評価していることを意味する
解説:PBR<1は市場評価<帳簿上の純資産(解散価値割れ)。
PBR(Price to Book Ratio)= 株価 ÷ 1株当たり純資産(BPS)。1倍割れは理論上、企業を解散して純資産を分配した方が株価より高くなる状態を意味する。日本市場では長年多くの企業がPBR1倍割れで、東証がその改善を要請(2023年〜)している。
Q27. PER(株価収益率)を使った株価の理論値を求める式はどれか?
正解:EPS × 業界平均PER
解説:理論株価 = EPS × 適正PER。
PER(Price-Earnings Ratio)= 株価 ÷ EPS(1株当たり純利益)。理論株価を求める際は、同業他社や市場平均のPERを適正PERとして、EPS × 適正PERで計算する。PERが高いほど「将来の成長に対して高い評価(プレミアム)が付いている」と解釈できる。
Q28. 残余利益モデル(RIM:Residual Income Model)において「残余利益」とはどれか?
正解:純利益 − (期首自己資本 × 株主資本コスト)
解説:残余利益=純利益から株主資本コスト相当を差し引いた超過収益。
残余利益(RI)= 純利益 − 期首自己資本 × 株主資本コスト。株主が要求する最低収益率を超えて稼いだ「超過利益」を意味する。RIMはDCF法と異なりバランスシートの情報を活用でき、株主資本価値 = 現在の簿価純資産 + 将来残余利益の現在価値合計 で算出される。
Q29. 純資産価値法(NAV法)がM&Aの評価で使われにくい主な理由はどれか?
正解:将来の収益力(のれん・ブランド等の無形価値)を反映しにくいから
解説:簿価純資産は無形資産・将来収益力を捉えられない。
NAV法(Net Asset Value)は帳簿上の純資産(資産-負債)で企業価値を算定するが、ブランド・技術・人材・顧客基盤などの無形資産や将来の収益力が反映されない。そのため継続企業の評価よりも清算価値の算定や不動産会社・持株会社の評価に適している。
Q30. 感応度分析(Sensitivity Analysis)をDCF評価で行う主な目的はどれか?
正解:WACCや成長率の変化が企業価値に与える影響を把握する
解説:主要仮定の変化が評価額にどう影響するかを分析する。
DCF法は将来CFやWACC・成長率などの仮定に大きく依存する。感応度分析ではこれらの変数を変動させた場合の企業価値の変化幅を確認し、評価の不確実性(幅)を把握する。バリュエーションレポートではWACC×成長率の感応度テーブルが一般的に示される。
Q31. PSR(株価売上高倍率)がPERより有用とされる場合はどれか?
正解:赤字企業や利益が極めて少ない成長企業の評価時
解説:赤字でPERが算出不能なスタートアップ等にPSRを使う。
PSR(Price to Sales Ratio)= 時価総額 ÷ 売上高。赤字企業はEPSがマイナスなのでPERが計算できない。PSRは利益の有無に関わらず使えるため、高成長・赤字のスタートアップやテクノロジー企業の評価に広く用いられる。ただし利益率の違いを無視するため単独では判断が難しい。
Q32. M&AにおけるDDR(Discount Rate)の決定で用いるベータ(β)を推定する方法はどれか?
正解:類似上場企業のβをアンレバードに調整して再レバードする
解説:非上場・未上場企業はCompsのβを資本構成調整して使う。
非上場企業のβ推定:類似上場企業の観測βをアンレバード(負債なし)β = β / (1 + (1−T)×D/E) で資本構成の影響を除去し、次に評価対象企業の資本構成でリレバード β = アンレバードβ × (1 + (1−T)×D/E) する。これをCAPMに代入して株主資本コストを推定する。
Q33. コントロールプレミアム(支配権プレミアム)がM&A価格に上乗せされる理由はどれか?
正解:経営権の取得により戦略変更やシナジーを実現できる価値があるから
解説:支配権には経営改善・シナジー実現の価値が含まれる。
コントロールプレミアム:M&Aで経営支配権(過半数以上の株式)を取得する際に株式市場価格に上乗せされるプレミアム(通常20〜40%)。経営権があれば事業戦略の変更、コスト削減、シナジーの実現が可能になるため、単なる少数株式より高い価値を持つ。
Q34. DDM(配当割引モデル)を使った株式価値評価が最も適している企業タイプはどれか?
正解:安定的に配当を支払う成熟企業や金融機関
解説:安定配当企業に有効。配当がないと適用困難。
DDM(Dividend Discount Model):将来の配当の現在価値合計で株式価値を算定する。安定した配当政策を持つ成熟企業・公益事業・銀行・保険会社に最適。無配や配当が不規則な成長企業にはDCF法(FCFベース)が適している。
Q35. 取引事例比較法(Precedent Transactions)の特徴として正しいものはどれか?
正解:実際のM&A取引価格を参照するためコントロールプレミアムが含まれる
解説:過去M&A価格はプレミアム込みで類似会社Compsより高くなる傾向。
取引事例比較法(Precedent Transactions/Deal Comps):過去の類似M&A取引の買収倍率を参照して評価する。実際の取引価格にはコントロールプレミアムが含まれるため、上場株価ベースのCompsより高い倍率になることが多い。ただし市場環境の変化や取引の特殊性に注意が必要。